
♪コンサートレポート
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NPO法人関西音楽人クラブ Spring Concert 2025~アンサンブル・フロットと共に~
2025年4月13日(日) 16:00 兵庫県立芸術文化センター・小ホール
バッハ:2台のピアノのための協奏曲ハ短調BWV1060/ロッシーニ:オペラ「セヴィリアの理髪師」より“今の歌声は”/モーツァルト:コンサートアリア「私は行く、だがどこへ」K.583、「ドン・ジョヴァンニ」より“酷いですって?-そんな事はおっしゃらないで”、ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466/ヘンデル:オペラ「ジュリアス・シーザー」より“この胸に息のある限り”/アーノルド:ギター協奏曲op.67 他
【出演】指揮:高曲伸和 管弦楽:フロット室内管弦楽団 プロデュース:藤渓優子
2台ピアノ:前田峰子&田村映子 ソプラノ:前田尚代、吉村桜子、森本まどか、畑友実子 ギター:藤原盛企 ピアノ:中村美生子
宗教音楽のスペシャリスト高曲伸和氏が率いるアンサンブル・フロットは、専門とする教会音楽以外に、この日のように華やかな世俗的ガラ・コンサートなども行う。ソリストたちにとって、いわゆる「オケ伴」で技量を披露する機会は大変貴重であり、この楽団の存在はとても頼もしく、心強いことだろう。
まずは前田峰子氏と田村映子氏によるバッハの二重協奏曲、端正なタッチで奏でられる近代的なピアノの音色がオーケストラとよく共鳴している。続くは四人の声楽陣、終始にこやかな微笑みを絶やさぬ前田尚代氏、とりわけ中声域の自然な感情の発露が印象的な吉村桜子氏、素朴的リリコというべき清澄な歌声がやさしく心に沁みる森本まどか氏、力強く情感的なドラマティコでありながら、人物の心情を繊細かつ抒情的に表現する術にも長けた畑友実子氏、みなそれぞれに個性的だ。そしてこの日唯一の20世紀作品であるアーノルドのギター協奏曲は、フルート、クラリネット、ホルン各一本ずつに弦楽五部という小編成で、巧みなオーケストレイションによって繊細なギターの音色を際立たせ、連綿たる憂愁の情緒を切々と奏でる素晴らしい音楽だ。藤原盛企氏は、床に落ちたピンのようにか細い音から荒々しく激しいトレモロまで、八面六臂の活躍をみせてギター演奏の限界に挑む。最後の中村美生子氏によるモーツァルトのニ短調協奏曲では、とりわけ第二楽章中間部の激情溢れる箇所が印象に残る。花冷えの雨が肌身に沁みる一日の、温かい感情に満たされたコンサートだった。(音楽ライター:北川順一)

青山優子 フルート・リサイタル~バロックの愉しみ~
2025年4月12日(土) 14:00 ムラマツリサイタルホール新大阪
C.Ph.E.バッハ:ハンブルガー・ソナタト長調/J.S.バッハ:フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタロ短調/N.シェドヴィル:ソナタ「忠実な羊飼い」第6番ト短調/M.ブラヴェ:ソナタト長調op.2-1/J-M.ルクレール:ソナタホ短調op.2-1
【出演】フルート:青山優子 チェンバロ:江口恭子
バロックのレパートリーをずらりと揃えた今回のリサイタルで青山優子氏は、輝かしい高音域がよく伸びる「金」ではなく、とりわけ中低音の響きが豊かな「銀」のフルートを選んだ。ヴィブラートを排した素朴な音色にはしかし大変説得力がある。そのうえ全音域を通じてその音色はきわめて均質で粒が揃っており、どこまでも豊穣で美しい。そして少しも力まず自然体で発せられた音がホールの隅々にまでしっかり届いている。まさに楽器やホールの特性を知り尽くした見事な演奏だ。
前半のバッハ親子からすでに明らかなように、フルートの豊穣な音色とチェンバロの古雅な音色が心地よく溶け合い、時には遊び心さえ垣間見える。後半のフランス・バロックではその腕はますます冴えわたり、堅実な通奏低音の上で優雅に舞うような装飾音がとてもチャーミングだ。現代的なヴィブラートを用いずとも、美しい音色と装飾音の巧みな扱いによって、これほどにも情感豊かな演奏が可能なのだ。古楽奏法を表面的に真似るのではなく、最高の技術で作られた現代の楽器を用いて時代様式にふさわしい演奏をするという、今日におけるバロック演奏の一つの答えがそこにある。江口恭子氏も、古楽器を模した新しいチェンバロのみずみずしい音色を存分に生かし、繊細なタッチと鮮やかな色彩感で青山氏を支える。
楽器や奏法に古今の違いはあれど、「良い音」を目指すべきことに変わりはない、あらためてそう強く感じた午後のひとときであった。(音楽ライター:北川順一)
