
♪コンサートレポート
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俣野修子・奈良場恒美ピアノデュオリサイタル
2019年10月06日(日) 15:00 いずみホール
チャイコフスキー: 組曲『くるみ割り人形』op.71a(連弾)
アレンスキー: 組曲第1番op.15 「ロマンス」「ワルツ」「ポロネーズ」(二台)
ラフマニノフ: 組曲第1番『幻想的絵画』op5より 「舟唄」(二台)、組曲第2番op.17 「序奏」「ワルツ」「ロマンス」「タランテラ」(二台)
(アンコール)
ラフマニノフ: ヴォカリーズop.34-14 連弾
俣野修子、奈良場恒美両氏が、連弾と二台のピアノという似て非なる形態でその妙技を披露した。まずはチャイコフスキー。ピアノ的特性が十分に生かされつつも、オーケストラ的な色彩感も全く損なわれない。主旋律と伴奏形のバランスが実に見事で、この曲の面白さ、楽しさを十二分に伝える素晴らしい演奏だ。アレンスキーからは二台ピアノである。両氏は互いに技巧を競って音をぶつけ合うようなことは決してせず、二人の音をまるで経糸と緯糸のように巧みに交錯させ、一台のピアノでは為しえない効果を実現する。したがってその演奏は、アレンスキーの「ロマンス」やラフマニノフの「舟唄」のように抒情的、叙景的な曲でこそ最も効果を発揮する、といえるだろう。とりわけ「舟唄」では、寄せては返す一連の波の動きに、もう一つの波が別の方向から打ち寄せるように、ステレオ効果が最大限に活用されている。そしてその果てしない音の波の向こうには、まるで絶望に呻吟する作曲者の苦悩さえ浮かんでくるようだ。第二組曲でも、二大ピアノの魅力は存分に伝わる。ぴったりと息の合った「序奏」、両氏の音が切れ目なく紡ぎ出される「ワルツ」、互いの思いがアルペジオの掛け合いとなって語られるような「ロマンス」、そして「タランテラ」では、いくぶん抑えたテンポで重厚感あふれる見事な音のピラミッドが築き上げられていく。連弾と二台ピアノとはこうも違うものか、ということをあらためて認識した一日であった。(音楽ライター:北川順一)

モーツァルト室内管弦楽団 第190回定期演奏会〈創立50周年記念シリーズ〉第1回 フランス音楽特集
2019年10月05日(土) 14:00 いずみホール
フォーレ:組曲『マスクとベルガマスク』より 「序曲」
イベール:フルート協奏曲
サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番ト短調op.22
ビゼー:交響曲ハ長調
【出演】Cond/門 良一 Orch/モーツァルト室内管弦楽団 Pf/山田富士子 Fl/山本ありさ
モーツァルト室内管弦楽団のもう一つの得意分野といえば、小編成の特徴を生かしたフランスものであろう。この楽団の最大の美点と言えるバランスの良さが発揮された音空間は繊細かつ上品であり、いかにもフランスの佳品にふさわしい。最初にフォーレの「序曲」。この日も弦と管のバランスは絶妙であり、ひたすらしなやかで、心地よい一陣の秋風のように通り過ぎていく。続いてイベール。山本ありさ氏は大向こうを張るパワーこそ持たないものの、よく練られた美しい音色で聴衆を魅了する。技巧的なカデンツァをはじめ、連続するスタッカートやフラッターなども巧みにこなす。金色の輝きを放つ高音域と対照的に、独特のうなりを持つ中低音域の豊かな表情もいい。そしてサン=サーンスの山田富士子氏は、冒頭から一歩一歩しっかりと踏みしめるように、絶妙のテンポ・ルバートを用いて、きわめて説得力ある演奏を繰り広げる。軽妙なスケルツォ楽章、そして逆巻く怒濤のようなサルタレルロの終楽章でも、決して弾き急がず、どっしりとした安定感と重厚感を醸し出している。いかに演奏至難な箇所であっても少しも揺るがず慌てず、まさに女王の風格だ。最後にビゼーの交響曲。簡潔な管弦楽法を反映して、伴奏部の土台の上にメロディーラインを明快に浮かび上がらせる様子はまことに粋である。ソロもトゥッティも大変美しく、まるで淡くくっきりした色調の水彩画のようだ。テンポも実に適切で、細部に至るまでメリハリが聴いていて、実に楽しい演奏である。(音楽ライター:北川順一)

木下千代ピアノリサイタル
2019年09月27日(金) 19:00 いずみホール
ハイドン:ピアノソナタ第49番変ホ長調Hob. XVI:49
ベートーヴェン:ピアノソナタ第21番ハ長調op.53『ヴァルトシュタイン』
シューマン:『クライスレリアーナ』op.16
(アンコール)
シューマン:『子供のためのアルバム』op.68より 第32曲「シェーラザード」
ブラームス:間奏曲変ホ長調op.117-1
独墺系レパートリーの王道というべきプログラムでリサイタルに臨んだ演奏の根幹には、テンポ取りから強弱の変化に至るまで綿密に計算されつくした、きわめて知的な洞察がある。その上、歌心に満ちた即興的なひらめきがあらゆる瞬間に発揮されるので、聴く者の心はしだいに静かな深い感動へといざなわれていく。まずはハイドン。古典派らしい装飾音や非和声音を実に自然に際立たせ、そこに込められた喜びや悲しみなどの情念を一つずつ丹念に解き明かすように演奏し、まさに「古典派の愉悦」というべき境地を切り拓いていく。ソナタアルバム所収の一曲としてピアノ学習者にはおなじみのこの曲を、単なる「練習曲」ではなく、完成された「芸術作品」へと昇華させている。ベートーヴェンでも、はやる心を抑えるかのように落ち着いたテンポをとり、個々の音を美しく明快に響かせる。跳躍力と推進力に富む第一楽章、短く内容豊かな序奏に続く終楽章の屈託のない大らかな歌の、何と素晴らしいことか。まさに静かなる熱狂、『ヴァルトシュタイン』はこうでなければ、というべき見事な演奏だ。そしてシューマンの大曲では、フレーズの頂点を目指して一気に畳みかけるようなアレグロ楽章と、静かで内省的な緩徐楽章とを実に巧みに対比させる。そして、興に任せて鍵盤に指を走らせながら楽想を練った作曲者の喜びをわが喜びとして、この曲の持つ即興性を十二分に引き出すことに成功している。(音楽ライター:北川順一)

Spring Concert 2019 春薫~色とりどりの音色に包まれて
2019年04月10日(火) 19:00 兵庫県立芸術文化センター・神戸女学院小ホール
○小松加奈(マリンバ)ヘンデル「ラルゴ」、ジブコビッチ 『イリヤーシュ』
○渡邊光太郎(バリトン)、中根祥子(ピアノ)別宮貞雄 『さくら横ちょう』、木下牧子 「三好達治の氏による二つのうた」より『物語』『乳母車』
○新暁子(クラリネット)、金澤佳代子(ピアノ)シューマン「 幻想小曲集」op.73
○エンキ(中国琵琶)エンキ 『故郷の春節』『琵琶のワルツ』、中国古曲『陽春白雪』
○城居裕貴・丹羽真奈美(ピアノ連弾)ドビュッシー 『小組曲』
○鰺坂知佳・川本麻弥(二台ピアノ)ラフマニノフ「前奏曲」より 『鐘』op.3-2、ローゼンブラット『アリス・イン・ワンダーランド』
○金澤佳代子・猪瀬千裕(二台ピアノ)サン=サーンス「動物の謝肉祭」より『白鳥』、ローゼンブラット『カルメンの主題によるファンタジー』
今年も関西の楽壇に春を告げるスプリング・コンサートの季節がやってきた。まずは小松加奈氏のマリンバ。ヘンデルでの柔らかなトレモロ奏法による和声は、呪術的でこの世ならぬ禁断の美しさを演出する。一転してジブコビッチでは硬質で鋭いリズムが炸裂する。その激しい跳躍の衝撃は、破壊的でさえある。続いて渡辺光太郎、中根祥子両氏の日本歌曲。『さくら横丁』では、バリトンにしては高い声が桜のはかなさを表しているようだ。そして木下牧子の二曲では、セピア色の記憶の風景ともいうべきこの作曲家独特の世界が、ありありと眼前に繰り広げられる。新暁子、金澤佳代子両氏のデュエットによるシューマンは、まるで陰鬱な冬から春の歓喜への移行を表現したかのような、まさに春らしい曲といえよう。ドイツ管らしい柔らかいアタックと美しいレガートが新氏の持ち味だ。中国琵琶の名手エンキ氏は、金属弦の繊細かつ鋭い響きで凛とした厳しさを演出する。この日のために書き下ろした二つの新曲、『故郷の春節』『琵琶のワルツ』は、豊かな旋律性の中に即興の妙を覗かせる。そして超絶技巧に彩られた古曲『陽春白雪』では、濁世を超越して奏楽に興じる仙女のような、冒しがたい気品と風格が感じられる。城居裕貴、丹羽真奈美両氏は肩を並べて、随所に親密な雰囲気を漂わせて『小組曲』を弾く。「バレエ」の生き生きとしたリズムがとても印象的だ。
ピアノ二台というのは、連弾とは違って向かい合う二人の奏者が互いに腕を競い合う趣があるが、今夜の二組は違っており、気心の知れた友人同士や師弟が呼吸を揃えて合奏を楽しむ室内楽的な雰囲気に満ちていた。鰺坂知佳氏、川本麻弥氏の組も金澤佳代子氏、猪瀬千裕氏の組も、ともに二曲目にローゼンブラットを演奏したが、いかにもパロディーらしい軽妙洒脱な味わいを余すところなく客席に届けていた。(音楽ライター:北川順一)

モーツァルト室内管弦楽団特別演奏会 頑張れ! モーツァルト室内管弦楽団
2018年10月30日(火) 19:00 いずみホール
モーツァルト:歌劇『ドン・ジョヴァンニ』K527より「みてらっしゃい、かわいい人」(独唱: 永田 桂)、「むごい女ですって」(独唱: 森本まどか)、「何と言うふしだらな」(独唱: 野村 ゆみ)
歌劇『皇帝ティトの慈悲』K621より「私は行く、でも愛しい人よ」(独唱: 山寺由利子)
歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』K588より「女も15歳になったら」(独唱: 永田 桂)、「岩のように動かず」(独唱: 櫻井孝子)
ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K216(独奏: 八幡 順)
ピアノ協奏曲第26番ニ長調K537(独奏: 添田 ゆみ)
【出演】Cond/門良一 Orch/モーツァルト室内管弦楽団
Sop/櫻井孝子、永田桂、野村ゆみ、森本まどか M-Sop/山寺由利子 Vn/八幡順 Pf/添田ゆみ
創立五十周年を目前にしたモーツァルト室内管弦楽団の特別公演である。前半はモーツァルトのオペラからアリアの数々をいずれ劣らぬ五人の歌手が披露する。柔らかくかわいらしい声質の永田桂氏、明るいリリックな声が身上の森本まどか氏、張りのある低声が高声をもドラマティックに演出する野村ゆみ氏、迫力ある声量たっぷりのメゾソプラノ山寺由利子氏、そしてこれまたよく響く低声で決然とした歌唱を行う櫻井孝子氏。五人がそれぞれの持ち味を遺憾なく発揮して、この華麗なガラ・コンサートを美しく彩る。
後半はひときわ華やかな協奏曲が二つ並ぶ。八幡順氏のヴァイオリンはくすんだ柔らかい音色を持ち、そのしっとりとした湿潤感が得も言われぬ情緒を醸し出す。美音へのこだわりは並々ならず、開放弦やアグレッシヴな重音とて決して柔和な響きを失いはしない。とりわけ第二楽章のむせび泣くような情感が言いようもなく美しい。
そして『戴冠式』の添田ゆみ氏は、明快で軽やかなタッチといい、厳しくも生き生きとした付点のリズムといい、まさしくこれぞモーツァルトというべき演奏だ。力強く小気味よいテンポで進む第一楽章に続いて、第二楽章はセレナーデ(小夜曲)の趣きを漂わせる。やわらかな弦の褥の上でまどろむようなピアノ・ソロが実に美しい。そして終楽章では、バランス良く明るい管の響きに乗せて、添田氏のピアノもますます溌剌と冴えわたる。
彼女たち素晴らしい共演者を得て、モーツァルト室内管弦楽団のメンバーも勇気百倍、新たな活動の希望や構想も湧いてきたことだろう。今日この日を新たな契機として、さらに良質のモーツァルトをファンに届けるため、五十年、いや百年と元気で活躍し続けるよう願ってやまない。(音楽ライター:北川順一)

土井 緑ピアノリサイタル
2018年10月24日(水) 19:00 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
ラヴェル: ハイドンの名によるメヌエット
尾高尚忠: ソナチネ
大澤壽人: ソナチネ
ドビュッシー: 喜びの島
ラヴェル: クープランの墓
(アンコール)
大澤壽人: 富士山
ショパン: 幻想即興曲嬰ハ短調op.66、練習曲第13番変イ長調op.25-1『エオリアン・ハープ』
フランスものを得意とする土井緑氏は、強弱の細やかなニュアンスを巧みに用いて粒の揃った個々の音を美しく彩る演奏家だ。不協和音でさえ、新たな音色を創り出すための手段となる。そのことは「ハイドンの名によるメヌエット」ですでに明らかだ。
戦前の西洋で学んだ二人の日本人。尾高尚忠のソナチネは、まるでラヴェルの曲の続編のように聴こえるが、随所に日本的要素がみられる。大澤壽人の作品からは、西洋の多くの先人の音楽が聴こえてくる一方、冒頭の危機をはらんだ振幅の大きな音型が印象的だ。二人とも、西洋に深く学びながらも日本人である宿命から逃れられぬことを自覚していたのであろう。いずれをも土井氏は繊細で明快なタッチを用いて、東西の狭間に生きた作曲者の苦悩を表現する。
「喜びの島」は抑えがたき歓喜の発露として劇的に演奏されることが多いが、土井氏は敢えてそれを抑え、つとめて静かに、抒情的に演奏する。繊細な冒頭のトリルと、生き生きとした鋭いリズムとの対称の妙が光る。
そして難曲『クープランの墓』を、土井氏は気負いもなくさらりと弾いてのける。「前奏曲」は軽やかなタッチの向こうに切ない情感が浮かび上がる。「フォルラーヌ」や「リゴードン」では、決然とした演奏が絶妙のリズム感を際立たせる。「メヌエット」は、在りし日を偲ぶかのような透明な和声感が美しい。最後の「トッカータ」では、尾高の第三楽章と似た音型を、タッチを微妙に変えて演奏している。ここでも西洋と日本をあえて対比させてみた演奏者の意図がわかるようだ。(音楽ライター:北川順一)
